コラム

村木雄児さんのこと


酒器

村木、あいつ、へたうまだろ? と、青木亮さんは言います。

焼きものを始めたばかりの人や子供は、つたないけれど

時折、 素朴で、ハッと心に響くものを作る。

けれど、やがて経験を積むにつれ、腕は上がるけれど

最初の素朴さが失われ、意識してそれを表現しようとしても

ただ、わざとらしくなるばかり。

でも、たまーに居るんだよな。 いつまで経ってもそういうものを作れる奴が。

たとえば、村木…と、青木さんは、ちょっと悔しそうに言います。
 
 
村木さん
 
 
なるほど、とわたしは目からウロコが落ちる思いがします。
粉引きのうつわを作り続けて、20年近く。
技術も経験も十分な村木さんなのに
その作品が、ほのぼのとどこか懐かしくいとおしい表情をしているのは
村木さんの天性の「子供の心」が写し出されているからなのでしょう。
 
そして、その真似ようとしても真似のできない感性が
使い手だけでなく、作り手の人たちをも引き付ける魅力なのだと思います。
 
 
梅の庭
 
 
村木さんのうつわと出会ったのは、まだ新米のショップオーナーだったころ。
(いまも、たいして変わりませんが)
そのころ親しくしていただいていたギャラリーの片隅に
ほんのりやさしい色と手に包みたくなるかたちの粉引きのそば猪口とお湯のみを見つけ
どなたのですか?と訪ねると、いいでしょう?
と、 お店の方は嬉しそうに村木さんのことを教えてくれました。
 
そのころからもう、村木さんは人気の作家さんだったようです。
けれど、気後れしながらおずおず電話して、お願いすると
いとも簡単に引き受けて、今度、東京に行くから寄りますと約束してくれました。
そして、その言葉通り、ある日、うつわの入った箱を抱え「こんちわ」と現れてくれたのでした。
 
気さくで、面倒見良くて「兄貴肌」(という言葉があれば)というのが、
それからの変わらぬわたしの「村木さん像」です。
 
 
村木さん2
 
 
村木さんと青木亮さんは仲良しであり、きっといいライバルでもあります。
豪胆に見えてナイーブな青木さん。ひょうひょうとしていて、芯の強い村木さん。
いろいろなスタイルに挑戦しながら進む青木さん、20年、ほぼ粉引き一筋の村木さん。
好対照のふたりは、お互いにいい刺激を与えあう関係なのだと思えます。
 
そのふたりが時折、トラックに乗って「土を取りに行く」という話をいつか聞いて
驚いたことがありました。「土を取りに行く?」
でも、別にふたりでスコップを持って掘るわけでなく、原土の産地へ
分けてもらいに行っていたというのが真相でした。
 
 
窯
 
 
「ブレンドした土はつまらないんだよね」と、村木さんは言います。
材料やさんで売っている土は、成型しやすいよう、ブレンドされている。
でもそれでは、つまらない。
石があったり、クセがあったり、村木さんがこうしようと思っても
抵抗して、その意志に逆らう土とコミュニケーションを取りながらかたち作って行く。
それが楽しいんだ、と言うのです。
土の声に耳を傾けながら、ねじ伏せることなく
土の個性をいとおしんで作る。
だから、どれだけキャリアを積んでも、むしろ積めば積むほど
村木さんのうつわは素朴で、土の呼吸が聞こえてくるのだと思います。

 
 
うつわ
 
 
ずっと粉引きひとすじだった村木さんが
最近、目を向けているのが唐津と磁器。
グレーから渋めの赤まで幅と奥行きのある発色が魅力の唐津。
青白の清々しい色合いに、村木さんならではの土味を生かしたあたたかな磁器。
新しい土たちと出会いから始まる、これからの世界がたのしみです。

2004年訪問

→村木雄児さんの作品はこちら。

 

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