コラム
福永芳治さんのこと
どんな焼きものでもいいんです。
ただ、ひとつの焼きものの背後にある
「宇宙」を感じられるものを作りたい。
…と、福永さんは言います。
人も「もの」も、宇宙から見れば、小さくはかない存在。
けれど、ひとりひとりの人間の中にそれぞれの宇宙があるように
たんなる「もの」を超え、道具を超えて
人と対峙して語りかけてくるような、凛とした存在感のある焼きもの。
それが、福永さんの目指すものなのかも知れません。
蹴ろくろ(電動でなく、足で蹴りながら回すろくろ)を使った
柔らかみのあるかたち。
シンプルでいて、陰影のある色合い。
使い勝手もよく、熟練を感じさせるうつわを作る福永さんは
じつは脱サラで、本格的に陶芸家として独立したのは
いまから10数年前の40歳のときのことです。
長く勤めた出版社に別れを告げたのは
ひとりでできる仕事がしたかったから。
思考やら概念やらを、一度、 自分のからだにフィードバックさせ
「頭」と「からだ」で考えられる仕事がしたかったからで
その対象がたまたま「土」だった、と言うのです 。
「僕は単身赴任なんです」と、初めてお目にかかったとき
自己紹介された通り、いまも福永さんは仲の良いご家族とふだんは離れ
八ヶ岳のそばの緑に包まれた武川村で、ひとり、自分と向かい合い、
土と向かい合って作陶を続けています。
(下の写真は、焼き締め用の蛇窯)
日々、黙々とひとりで仕事をしているためか
会うと、福永さんはお話好きです。
時折、お家にお邪魔すると「単身赴任」で磨いた腕で
美味しいパスタを作ってくれ、香ばしいコーヒーを入れてくれ
「じゃあ、そろそろ」と仕事場を見させてもらうまで
とりとめなくおしゃべりが続きます。
気さくで、九州男児らしくはっきりとした
福永さんと話していると、ついついざっくばらんになって
こちらも、とまらなくなってしまうのです。
パスタやコーヒーは、いつも粉引きのうつわで出されます。
シミになりやすい粉引きだけど、福永さんはいちばん愛用しているようです。
いつぞや、あつかましくも友人たちと押し掛けて
福永家でバーベキューをさせてもらったときも 取り皿は粉引きでした。
福永さんにとって、自作のうつわは、まったく気のおけない
そして、気心知れた、生活のパートナーになっているようにも見えました。
粉引き、鉄彩、グレーのわら灰。
福永さんの定番になっている色は、どれもお料理を盛りやすく、
ほかのうつわとも 合わせやすく、日々の食卓に欠かせなくなるものばかり。
けれど、個展以外ではなかなか出会えない、上品で美しいピンクの長石や
鉄彩とまた違った艶やかな黒も、わたしは目を離せなくなって
会期後にいくつか残っていると、ちょっとほくそ笑みつつ、
ちょっとまいったな~とか思いつつ
ついつい自分の食器棚へお引っ越しさせてしまいます。
そんな福永さんのうつわたち。
あなたもぜひ、使ってみてくださいね。
2003年11月訪問
→福永芳治さんの作品はこちら。